勇者様と恋人宣言―アラサー勇者は恋がしたい―

わざと遠回りしているけど、いつまでもこうしていられない。
全く、イレーネはいったいどこにいるのよ。


「ねえ」
急にアルバートが立ち止まる。


「何よ」


「何か音がしない?」


「音?」
私は耳を澄ました。

確かに鈍い音が近づいてくる。聞いたことのある音だった。

足音……?


私たちは後ろを振り返った。


男の子?


目の前に男の子が一人、こちらに向かって駆けてくる。


「ルーナ! 逃がさないで」
イレーネの声だった。


私はよく分からないままその男の子を捕まえようと手を広げた。


しかし、男の子は寸前で跳躍し、私を踏み台に更に飛んだ。


「きゃあ!」
無様にも私は廊下に突っ伏した。


「あ、ちょっと、ちゃんと捕まえてよ!」


「うるさいわね」
私はすぐに追いかけようと立ち上がろうとする。


「つかまえたよ?」
2、3メートル先でアルバートが満面の笑みを浮かべていた。

片手は例の男の子の襟首をしっかりと掴み、もう一方の片手はピースを作っている。


「あ、ありがとう」
イレーネは顔を真っ赤にしてこちらに近づいてくる。


私はアルバートとイレーネを交互に見た。


イレーネはアルバートと目を合わせることができないようだった。

どうやら、アルバートが好みのタイプのようだ。

見た目は良くても中身がチャラくて上っ面だけ紳士なのを知らないからだろう。