勇者様と恋人宣言―アラサー勇者は恋がしたい―

武器庫に中には誰もいない。

鍵も壊れていなかったし、大丈夫そうだ。


「よかった……」

私は鍵を閉めなおし、そうつぶやいた。

これで安心してイレーネのところに行ける。


「何がよかったの?」
背後に全く知らない男が一人、きょとんとした顔をしていた。

髪は黒く、緩やかなウエーブがかかっており、長い髪をひとつに束ねている。
顔は精悍な顔つきで、日焼けをした健康的な肌をしていた。
年齢はおそらく30代前半。
瞳は菫色と少し珍しい色だ。

かっこいいと柄にもなく思ってしまった。


しかし、この騒動の中で武器庫に来る人間がいるだろうか。

ふつうなら泥棒を探すときは泥棒が狙いそうなところを探すはず。
寮であれば、寮の中にある金庫や各部屋をさがすだろう。

また、同じところに住んでいるなら、こんなかっこいい人知らないわけがない。

ということは、少なくとも、この寮にいるべき人間ではない……ということになる。


私は警戒心を強めた。


「それよりも、俺、道に迷っちゃってさ。寮長さん?だっけ。会いたいんだけど」


「ああ、それなら、寮長室にいるけど?」
私はさらに警戒心を強めた。

寮長室には金庫があるのだ。


「そこそこ! 連れてってよ!」
男はうれしそうにニコニコと笑う。

どうやら、すごく馴れ馴れしい人のようだ。


そこで私は、泥棒ならこのまま皆のいるところに連れて行けば簡単に捕まえられるということに気づいた。

うまく行けば、剣も守れて、泥棒も捕まえられる。


「わかったわよ。じゃあついてきて」