勇者様と恋人宣言―アラサー勇者は恋がしたい―

ヴィクトールの返事を待たず、私は駆け出した。


「ちょっと、お前、待てよ!」


「待たない! まかせたわよー」


そう、返事を待っていたら、おそらく「ノー」であることはわかっていた。

しかし、置いていってしまえばこちらのモンだ。
奴の性格上、こんなに疲れきったご婦人を置いてなどいけないだろう。

奴は私以外にはとても優しい男だ。


「ルーナはアナタに任せると言ってるのよ? いいチャンスよ」
イレーネはヴィクトールにそう意味ありげに笑うと、私を追いかけた。


ヴィクトールはついてこなかった。



二日酔い気味の私は失速していく。

それにイレーネが追いつく。


「やばいよ、もしも泥棒があれを見つけたら」
イレーネは眉をひそめ、囁く。


「さすがの私でも、ちょっと後悔。焦ってる」
私も声を小さくする。


「あ、逆に、泥棒が剣を抜いたことにしちゃえば?」


「え、泥棒を勇者にしちゃう? それはさすがにまずいんじゃない」


「そうよね、泥棒が英雄と同列に語られるのはちょっとまずいよね。
じゃあ、やっぱり泥棒を捕まえてしまうのが一番ね」

イレーネの言葉に私は力強く頷く、が。


「……でもね、私……吐きそう…」

猛烈な吐き気に走るペースは急激に落ちる。


「もう! 先に言ってるわよ」

イレーネは左手に持っていた杖を投げる。
すると杖は座るのにちょうどいい高さあたりで浮く。

イレーネは赤毛を揺らし、杖に飛び乗った。


「見つけたら捕まえとくわ」

そう言うと、杖は部隊長の早さと同じようなスピードで飛んでいった。


「その手があったか……なんで、杖を忘れた、私」
私はのろのろと倉庫へ向かった。