「お前は」

・・・・・・一体、誰の味方なんだ。

そう、聞こうとして聞けなかった。スカーレットは全身が悲鳴を上げていた。刺すような鋭い瞳。其の奥に隠された狂気にスカーレットは触れようとしていたのだ。だが、寸前のところで本能が働き、言葉を飲み込むことができた。此の時のスカーレットはまだ知らなかった。既に手遅れだということに。
「此れからどうするんだ?」
「ラスール帝国が無条件降伏をすることはないから、開戦だろうな」
「あの、首都を半分破壊した兵器については?」
「其の兵器はruin(ルイン)という名前だってことは分かったけど、対策はまだ立てられていない」
「随分、余裕だな。次にくらったら首都は壊滅だというのに」
「人間というのは嫌なものには蓋をしたくなる性分だからね」
「言ってる場合か」
「大丈夫だよ。そうバカスカ撃てば、此の国は完全に滅びる。彼らだって荒地は欲しくはないだろう」
此処で議論しても仕方のないことなので、スカーレットは早々に此の話題を打ち切ることにした。
「分かりました。私は声がかかるまで待機しています」
「嗚呼。必要になったら呼ぶよ」
スカーレットは敬礼をしてグレンの部屋を出た。グレンと話している間にジェイドが手当てをしてくれていたので、血は止まり、痛みは軽減されていて、動くのが大分楽になっていた。
「姉さん、グレン先生の前だと素が出るんだね」
ruinのことで動揺していたスカーレットは最初から警護モス蛙に、しかも完全に素で話していた。其れをジェイドに指摘されて初めて気づいたスカーレットは苦笑した。
「私もまだまだな」
「スカーレット!ジェイド!良かった、無事ね」
怪我をした足を引きずりながらミレイが前から歩いてきた。彼女の服は血で汚れていた。だが、其れはミレイ自身の血ではないと直ぐに、スカーレットもジェイドも分かった。
服について分だけミレイが怪我をしていたら、彼女が今、生きているのはおかしな量だからだ。おそらく、服についた血はクラスメイトのものだろ。血は服だけではなく、ミレイの顔にもついていた。
「本当に良かった。生きてた」
ミレイは泣きながらスカーレットに抱きついた。もう放さない。と、でもいうかのように。ミレイはスカーレットを抱きしめた。きっと何人もの友人の死を見たのだろう。ミレイの体は震えていた。
「他のメンバーもみんな生きているわ。怪我はしているけど」
他のメンバーというのはミレイ、スカーレットを除いた生徒会メンバーのことだろ。
「そうですか」
此の状況で親しくしている人間が全員生きているというのはスカーレットにとっても喜ばしいことではあった。
「何が起きたのか、さっきの放送についても何一つ情報が入ってこないから、此の状況はよく分からないけど、取り敢えず生徒会室に行きましょう。先生達とも話し合って今後のことについて決めなくてわ」
「今後のこと?」
疑問形ではあるが、ジェイドは決して返答を求めているわけではなかった。其れは彼の有無を言わせない目を見れば明らかだった。
「何を話し合うというんですか?」
「其れは」
今度も疑問形だった。ミレイは頑張って答えようとしたがジェイドは容赦なく遮った。
「此の国は明らかに他国から攻撃を受けています。一生徒にできることなんて何もありません」
「けれど」
「何もせずに国の方針が決まるのを待つだけですよ。僕達がするべきことは」
口調や態度はいつもと変わらない。だが、ジェイドの言葉一つ一つがミレイの心を突き刺す。
目の前で友人を大勢殺され、自分自身も死の恐怖を味わった、ミレイ。其れでも彼女は生徒会長として全校生徒を守る義務がある。其の義務が折れそうになっていたミレイの心の均衡を保っていた。だが、其れはジェイドにとっては神経を逆撫でする内容だった。
 ジェイドからしてみたら何もできない餓鬼は何もするな。下手に動かれても迷惑だ。という思いだった。
「怪我人の手当てを保健医の指示を受けてする。今のところは其れでいいんじゃないですか」
此処でミレイの心を此処で折ることに意味はない。万が一の時にミレイは役に立つ。恐怖が限度を越した時に、暴動は起きる。其れを抑えるためにもミレイの存在は必要だ。なら、ギリギリのモチベーションをミレイには保ってもらおうと思い、スカーレットは提案した。
「そ、そうね。そうするわ」
ミレイは指示を貰う為に保健医を探しに走って行った。どうやら、やることが決まり、ジェイドに言われたことも、足のけがのことも忘れているようだ。