シエディアオ歴一二年
 此処は博物館一階。飾られているのはruinの残骸と死体や破壊された写真。写真は、モノクロの状態で置かれていた。其れでも、王子と姫は死体の写真に顔をしかめていた。
「ruinは高エネルギーを持った爆弾です。投下された場所の近くに居た者は骨も焼かれ、死体すら残りませんでした。其処から少し離れた場所だと、かろうじて焼け跡が残されていました」
「じゃあ、此の人型の焼け跡って・・・・・」
 灰色のコンクリートに人型の炭が張り付いているような写真が数枚ある。
 姫は顔を青ざめて、女神を見上げた。其の隣の王子は写真から目を逸らし、必死に見ないようにしていた。
 子どもには少し刺激が強すぎたかもしれない。其れでも、女神は知っていて欲しかった。まだ心も体も未成熟なうちに、命の大切さを。あの頃の女神達にとっては当たり前だけど、当たり前にすることができなかったことだから。
「其処に誰かが居て、其処で死んだのですよ。死体は残らなかったけど」
「ひどい」
震える口を手で覆い隠し、辛さを堪えながら姫は死体の写真を見つめた。あの時代の辛さを受け止めようとしてくれるようで女神は嬉しかった。
「そうですね。でも、ある意味幸せだったのかもしれませんね。痛みを感じる間もなく死ねるのですから」
王子と姫は女神を見つめた。女神は其の視線には気づかず、写真を見つめていた。
「生かすことだけが救いとは限らない。死が救いになることもあるのです。あの頃の私にとって死は喉から手が出る程、欲しいものだった」
 そう、呟く彼女の瞳には平和な今の時代を映してはおらず、今尚、戦乱の世を嘆きながら駆けるか弱い少女のようだった。
「ruinは悪魔の兵器。此の世から消し去らなければならないものです」
 死体の写真を見る限り、女神の言葉は当然だ。だが、まだ別の真意がありそうで、王子は女神の目を見据えた。けれど、王子が探るまでもなく、女神は答えをくれた。
「ruinには有害な物質が使われています。其れを浴びると、細胞が徐々に壊死し、死に至る。私達は此れを“死病(しびょう)”と呼んでいます」
「・・・・死病。死の病」
「致死率は一〇〇%。当時は治療法なんてありませんでしたから」


 ヴァイナー歴五九九年 イヴァネンスの月 第五番目
 開戦から一年以上の月日が経ち、状況は大きく変化していた。