そして、スカーレット様が入っている円錐形に文字が刻まれていますね」
「本当だ」
「人の名前みたいですね」
「はい。此処には戦死した者達の名前が刻まれています」
「女神様、部屋の奥に並んでいる人型ロボットはラ・モールと同じなのですか?」
「はい。名前は右からディアーブル、悪魔、アン・ターヴィルは魔王、ルーチフェロは堕天使を意味する名前が付けられています。どれもラ・モールをモデルに作られたものです」
「どうしてみんな怖い名前ばかりなのですか?」
「そうですよ。国や民を守る為に戦った、大切な戦士達なのに」
王子と姫の言葉に女神は苦笑した。幼く、更に戦いを経験したことのない彼らには“戦う”ことの意味が分かっていなかった。其れは当時の女神達も同じだったからだ。
「たとえ、国を守る為とはいえ、人を殺す為に作られた道具だからです。どんな理由であろうと、人の命を奪う行為は等しく悪であり、正当化されるべきものではない。という意味を込めて作られたと言われています。そして、此の部屋が封印の間と言われる由縁でもあるのです。もう二度と戦争はしない。だから、戦争の為に存在する武器を此処に閉じ込めているのですよ」
「でも、ラ・モールは違うんのですか?」
王子の鋭い指摘に女神は苦笑した。
「そうですね。ラ・モールも他の三機と同じです」
「じゃあ、どうしてラ・モールだけ神殿の中央に置かれているのですか?」
「あれはスカーレット様の乗っていたものですから。其れだけ、スカーレット様は偉大だということです。其れに全てを封印するのではなく、人の目に触れる場所に置き、もう二度と戦争を起こさないように訴えてもいるのです。此れはスカーレット様の遺言でもあるので。戦争の悲惨さを忘れない為にも、戒めとして目に付く場所に置くことは大切なことです。悲しいことに、どんなに辛い経験でも、時間が経てば人は忘れてしまう生き物ですから」
「国を守った守護神でありながら、人を殺す為に作られ、其の為だけに生かされるなんて、なんだか悲しいですね」
「そうですね。でも、あの頃はそんな感情すら湧いては来なかったのです」
女神は遠くを見つめるような目をして戦争をしていた時のことを思い出していた。


ヴァイナー歴五九八年 ノルイの月 第一番目
本格的な戦争が始まった。其れと同時に国も機能を一時的にではあるが回復し、怪我人を病院に搬送することができるようになった。ただし、緊急性を有する重症者だけだ。其れ以外の者の外出はいまだに禁止されている。