ヴァイナー歴五九八年 ロスロンの月の第二三番目の今日、ラスール帝国の首都シュタットの中央広場に民衆は集まっていた。
イカルガ王国のサジェスタン王の公開処刑が行われるのだ。
鎖に縛られたサジェスタンが処刑台に上がった。民衆は彼に罵声を浴びせた。戦争によって愛する者を奪われた者達の怒りの言葉だ。
「戦争なんだから人を殺すのは仕方がないことだろう。何をふぬけたことを言っている」
「ふざけるなっ!」
サジェスタンの言葉に一人の男が怒鳴った。彼の息子はイカルガとの戦いで、軍人として趣き、殺された。イカルガ軍人に。
其の男を先頭に再び、民衆は叫び始めた。「息子を返せ」、「あの人を返せ」、「私達の当たり前だった日常を返せ」と。
民衆の怒りをサジェスタンは笑い飛ばした。
「同じことをそっくりそのまま返してやるわ。お前達がイカルガから奪ったものを返せ」
「おいっ!黙れ」
処刑執行人はサジェスタンを抑え付けた。
「早く殺せっ」
「そうだ、殺せぇ」
サジェスタンの死を願う民衆は「殺せ」コールを始めた。民衆の願いを叶えるように処刑は執行された。サジェスタンの体に二本の槍が突き刺さり、サジェスタンは口から血を吐き、死んだ。其の姿を見て民衆は歓声を上げ、王の死を、人の死を喜んだ。


ピッ
ソファーに身を沈め、サジェスタンの処刑をテレビで観ていたスカーレットはつまらなさそうな顔をしてテレビを消した。
「よく、ラスール帝国の民衆の前であんなことが言えますね」
スカーレットの弟ジェイドはスカーレットのコーヒーを渡しながら言った。スカーレットの前にあるテレビは電源が切られ、漆黒が映し出されていた。此の国の未来其のものを映し出しているようだった。
スカーレットは何も映っていないテレビを侮辱の眼差しで見つめた。
「どうせ、何を言っても死ぬのは確実だからいいんじゃない」
「投げやりですね。姉さんはサジェスタンの言ったことをどう思っているんですか?」
「間違ってはないと思うよ」
スカーレットはコーヒーを一口飲んだ。
「殺し、殺されるのは戦争の常識。大切な者を失う代わりに自分達も誰かの大切な者を奪う。其れが戦争。誰にも文句は言えないことよ」