戦慄のクオリア

「人が嫌いなわけではありません。ただ、どんなに仲の良い人でも一緒に居すぎるとさすがに疲れますから」
「そうだね。しかも、あそこ、空気が思いから」
「先輩も息抜きですか?」
「そうそう。息抜き、息抜き」
エヴァネンスはスカーレットと同じように窓辺に腰を下ろした。スカーレットと向き合う形で腰を下ろしたエヴァネンスをスカーレットは拒絶しなかった。だからといって受け入れたわけではないが、初対面で拒絶されなかったので、問題ないとエヴァネンスは判断した。
 スカーレットとエヴァネンスは何も言わずに月を見上げた。闇を照らす大きな光の玉が無音の街に降り注ぐ。其の姿は唯一の希望のようにも思えた。
「・・・・静かだな」
つい此の間まで闇を照らしていた人工的な光は今までは一つもなく、響き渡っていた騒音は消え去り、死んだような静寂が街を支配していた。昼だろうが、夜だろうが、変わらず、此の街から生気は消えた。みんな息を潜めて、隠れているのだ。顔も分からない敵から。
「!?」
月光しかなかった世界が一瞬、光を放った。街が光ったかと思うと、爆音がスカーレットとエヴァネンスの耳を貫いた。そして、勢いよく街が燃え始めた。
街が光った時、またruinかと思ったが、どうやら普通の爆弾のようだ。ruinではなく、爆弾による攻撃を受けていることにスカーレットは疑問を抱いた。だが、考えるのは後回しだ。スカーレットが耳につけているピアスが振動した。グレンからの呼び出しだ。
「先輩はみんなの所に戻っていてください」
其れだけ言って、スカーレットは走って行った。其の背が見えなくなるまで眺めた後、エヴァネンスはピアスに触れた。すると、ピアスからグレンの声がした。

<お前は二番隊と合流し、スカーレットがラ・モールで出陣するまでの時間を稼いでくれ>

「了解です」
エヴァネンスはもう一度、月を見上げた。今や闇を照らす唯一のネオンとなった月。其の優しい光で自分達も照らしてくれたらいいのにと思いながら、エヴァネンスは歩き始めた。月に背を向けて。