戦慄のクオリア

「嗚呼」
アダーラは一礼をしれ客室を出た。部屋の外には一人の女性が立っていた。何の表情もない其の女性はまるで主人に逆らわないようにインプットされたロボットのような印象を受ける女性だった。
「ヤシャル、イカルガ軍の受けはどうだ?」
「アルフォード殿下とイリーナ王妃が自分達の解放に向けて動いていることを知り、此方に協力的です。もっとも、ラスール帝国は内乱を気にして、警戒を強めていますが」
「だろうな」
「王子は知らないのですか?ruinがどうして乱射できないのか、本当の理由を」
「嗚呼。知られて、臆されては面倒だからな」
「ラスールの動きですが、此方にruinがあるので」
「戦争はしたくないが、無条件降伏もいや、か」
「はい」
「やれやれ。ラスールは我儘で困るな」
「引き続き、政府内で交渉を行っています」
時間の無駄だなとアダーラは一瞬思ったが、其処に妙な違和感があった。
「どうかしましたか?」
急に足を止めたアダーラを不審に思ったヤシャルは一歩後ろに居るアダーラを振り返った。だが、アダーラは自分の考えに耽っていた為、ヤシャルに見られていることに気が付いていなかった。
 ヤシャルもアダーラの考えを邪魔しないように沈黙を守っていた。
アダーラが考え始めてから数分。アダーラは思考を現実に戻した。
「直ぐに出陣の準備をする」
「え、しかし」
まだ政府が交渉している途中なのに、戦闘を開始するのは、と言おうとしたヤシャルをアダーラは遮った。
「此れはただの時間稼ぎだ。もしかしたらruinを破壊する方法がラスールにはあり、今は其の準備中なのかもしれない」
「直ちに出陣の準備をします」
ヤシャルは一礼をして出陣の準備に向かった。アダーラは足を止め、廊下に飾られている肖像画を見上げた。
アダーラが今居るのはイカルガ王国の王城だ。廊下にある肖像画は先代王家。そして彼が見つめているのは一〇歳で病死したレイチェル第一王女の肖像画だった。
 レイチェルの母親、マリア王妃は娼婦の出だった。其の為、レイチェルはあまり王宮で良い扱いを受けて来なかった。
 物覚えもあまり良くないと使用人からは馬鹿にされていた。だが、アダーラは一度レイチェルに会ったことがある。アダーラはレイチェルが周りに言われているような馬鹿な女王だとは思えなかった。寧ろ、とても賢い王女に見えた。王位争いに巻き込まれないように細心の注意を払い、警戒の対象にならないように馬鹿なフリをしているように思えた。
 レイチェルは強い瞳をしていた。理不尽な状況に置かれても仕方がないと、現状に甘えることはせずに、今できる最善を尽くそうと努力していた。