「だから、気にしない気にしない」

薫さんは、一人で百面相している私を、優しい眼差しで見つめる。

初対面なのに、全然そんな感じがしない不思議な人。

お医者さんだから?

ううん。

それを抜きにしても、私はこの飾らない性格の、磯辺薫という美しい女性が好きになった。

「マフィンが食べたくなったら、いつでもいらっしゃい。また一緒に、お茶しましょ」

その笑顔は、うわっ面だけの社交辞令には、見えない。

だから私は、薫さんのその言葉が素直に嬉しかった。

美味しい食べ物と、楽しい会話。

人間、これがあれば、大抵のことは乗り越えられるような気がする。

――あはは。

食べ物で元気になるあたり、私ってゲンキン。

人生最悪の一日の終わり。

こうして私は、美味しいマフィンの食べられる場所と素敵な友人を得て、ちょっぴり幸せモードで家路についた。