情熱の、キス。

浮かぶエレベーターの情景。

鏡越しの、少し鋭さを感じさせる、瞳。

愉快そうに細められた、黒い瞳。

――あの人に、お姫様だっこされた?

ひ、ひ、ひゃーーーっ!!!

頭の天辺からつま先まで、一気に熱くなる。

特に顔は火を噴きそうだ。

「あ、え、う、あの、その、……重いのに、お手数をお掛けしました!」

脳みそとっ散らかり状態の私は、意味不明なセリフを吐きながら、勢いよくペコリと頭を下げた。

――ああ、恥ずかしい。

覗き趣味と思われたかも知れないことよりも。

修羅場を目撃されたかも知れないことよりも。

あの黒い瞳の持ち主に『お姫様だっこ』されたと言う事実が、どうしようもなく恥ずかしかった。