「外せない仕事があるとかで、帰ったわ。あの朴念仁は」

「あ、す、すみませんっ。すっかりお邪魔しちゃって……」

もう、馬にでもカバにでも、蹴られます。

そんな気持ちで恐縮していると、薫さんは頬杖をついて、『うふふ』と少し少女めいた笑みを浮かべた。

「気にしないで、アイツも可愛い女の子をお姫様だっこ出来て、喜んでいたから」

「はあ……そうですか」

ニッコリ満面の笑顔の薫さんに、何となく相槌を打ってから数秒後。

私はその言葉の意味するところに気付いて、ギクリと固まった。

――え?

お姫様……が、なんですって?

ぽん!

っと、私の脳裏に、子供の頃から大好きだった『シンデレラ』のラストシーンが甦えった。

やっと巡り会えたガラスの靴の姫君に、王子は愛を告白する。

『姫、どうか私の后になってください』

涙ながらに頷くシンデレラ。

優しい包容。

お姫様だっこ。

見つめ合う瞳、近付く二人。

そして――。