シャワーから出て髪を乾かし、メインルームのベッドサイドまで静かに歩み寄ると、茉莉は幸せそうにキングサイズのベッドの右端であおむけに眠っていた。

 もしかしたら、俺のために左側をあけている?

 と、(らち)もない考えが浮かぶが、苦笑とともに打ち消した。

 そんなところまで考えてはいないはず。

 ベッドの端に座ってそのままころりと横になっただけ、というところだろう。

 それにしても。

 恋人である男の前で、そんなに無防備な寝顔をさらしてもいいのか、お嬢さん。

 俺だって、一応男なんだぞ。

 ベッドサイドに腰を下ろして額にひとつ口づけを落とせば、寝ぼけた茉莉はあろうことか別の人間の名前を呼んだ。

「お……母さん……?」

 思わず吹き出しそうになって、右手で口元を抑える。これはさすがに、本能の赴くままに襲うわけにはいかない。

 俺は彼女の隣りに体を滑り込ませると、腕枕をするために枕と首の隙間に左手をそっと差し込んだ。

 すると、茉莉はまるで猫のように体全体をスリスリと摺り寄せてきた。