「茉莉が、兄さんが何もしてくれないから『あのキスはきっと自分の妄想だったんだー!』と言い出したよ」

「は……? なんだそれ?」

 というか、キス云々(うんぬん)の話までするのかお前たち!?

「このままで良いの兄さん。大学でも茉莉に目をつけてる男子はいるんだからね。社長様だからって胡坐をかいてると、横からトンビに油あげかっさらわれちゃっても、知らないからね」

 それは、かなり嫌だ。

 だがそれを口にするのは、もっと嫌だ。

「仕方がないだろう? あいつは、ろくに寝ないで学業と仕事をこなしているんだ。これ以上よけいな時間を取らせてどうする?」

「……ああ、そういうことね」

 美由紀は、大きなため息をひとつ落として言葉を続ける。

「そういう気づかいができるなら、茉莉の負担にならない方法でお出かけイベントを考えればいいのよ」

「負担にならない方法?」

「ふふふ。その通り。この美由紀さまが、秘伝の方法を伝授してしんぜよう!」

 自信満々な声で美由紀が授けてくれたのが、今現在進行形中の『他のラブホテル見学という名のデート計画』だ。

 簡単に言えば、ライバルのラブホテルに敵情視察にいくふりをして、茉莉にホテルデートを楽しんでもらうという趣旨だ。

 まあ、せっかくだから、敵情視察は『ふり』ではなく、本当に行うバージョンにアレンジさせてもらったが。