母の語る変わり種のシンデレラのストーリーに、幼い私は夢中になった。

 そして、幼いながら思ったものだ。

 大きくなったらこのシンデレラのように、強くてカッコイイお姫様になりたいと――。

「茉莉……」

 ふと、名を呼ばれた気がして、夢に沈んでいた意識がわずかに浮上する。

 でもまだまどろみの中にいる私は、それが誰だか分からない。

「お……母……さん?」

 声になったかどうかは定かじゃないけど、その名を口にすれば額にそっとキスの感触が走った。

 幼いころ、よくこうして母が、額にキスをしてくれたのを思い出す。

 すぐ隣に人の体温を感じて、その体温にくるまれたくて、体を無意識にスリスリとすり寄せる。

 私を抱く腕にぎゅっと一瞬力がこもり、大きな手に頭を撫でられる。

 その大きな手は、そのまま背中を一定のリズムでトントンと叩きはじめた。

 ――ああ、やっぱりお母さんだぁ。

 全身を包む温もりと安堵感に包まれて、再び私は心地よい眠りの底へと落ちて行った。

 そして五時間後。

 ここ最近にない熟睡から爽快に目を覚ました私は、裸にバスローブをひっかけただけの社長に抱っこされて、キングサイズのベッドに横たわる自分の姿を目の前にして、雄たけびを上げたのだった。




【番外編】第3.5章 

セカンドキスはまどろみの中

   おしまい♪