社長自ら髪を乾かしてもらうという栄誉を賜った私は、『化粧品を使ってからすぐに行きます』と先に社長をメインスペースに追い出すことに成功した。

 もちろん、この隙に、もともと着ていた服に着替えるためだ。

 即効で着替えを済ませて、備え付けの化粧水と乳液をピシャピシャと手で顔に塗りたくり、急いでメインルームに向かった。

 我ながら、素早く行動できたと思う。

 ちなみに、メイク道具は持ってきていないから、すっぴんだ。

 でも、バスローブの下がすっぽんぽんよりは、ぜんぜん恥ずかしくないから、よしとしよう。

「なんだ、着替えたのか?」
 
 まさか、この短時間で私が着替えてくるとは思わなかったのか、社長は意外そうに片眉を上げた。

「はい。バスローブの着心地も確認できたので」

 そこまで言って、テーブルの上に所狭しと並べられている料理に目を見張った。

 洋風・ハンバーグランチ、和風・天ぷら膳、中華・エビチリと小籠包。和・洋・中を取りそろえたその料理は、皆ボリュームがあって、美味しそうだ。

「これって、レンチン料理じゃない……ですよね」

 クロスポイントで出しているのは、ほぼレンジで温めるだけの『レンチン料理』がほとんど。

 でも、目の前の料理は、ふつうにレストランで出されているような手作り感があふれている。

 さすがにこれは、温めるだけの料理には見えない。

「ここのオーナーは、もともと料理人だそうだから、食へのこだわりが強いんだろう。食事が美味いのも、評判を呼んでいる一因のようだ」

 既に指定席になりつつあるソファーの右隣に腰を降ろせば、社長は手にしたスマホの画面を見せてくれた。

 表示されているのは、ホテルの口コミサイトのようだ。評価が星印の五段階で表示されている。