たまにバスや電車を使うことがあるけど、シャンプーやら香水やらメイクやらの匂いが混然一体となって漂っている人に出会うと、匂いで酔っぱらってしまうくらいだ。

 このホテルの担当者が、そこまで考えてシャンプーやボディ・ソープを選んでいるのかは分からないけど。

 ――うん。

 なかなかいい感じの香りのバランスだ。

 きれいさっぱり全身を洗い終えたときには、湯船にはいい具合にお湯がたまっていた。

 洗面台の上に『お好みの香りをお楽しみください』というメモ付きで、小さなバスケットに置かれていたピンポン玉サイズのボール式入浴剤を一つ持ってきて、湯船の中に放り込む。

 すぐにシュワシュワと泡が立ち、入浴剤は湯面で楽し気にクルクルと回り出す。

 とたんに控えめなラベンダーの良い香りがあたりに立ち上る。

 足先からゆっくりお湯に使っていく。広々とした湯船は、足を伸ばしてもどこにもぶつからない。

 そういえば、ジェット・バス機能がついていたっけ。

 蛇口の隣にあるボタンを押せば、腰のあたりにある二カ所の吹き出し口からやや強めのお湯を噴射して、絶妙なマッサージ効果を与えてくれる。

 ――ああ、ごくらくごくらく。

 こんなに気持ちいいなら、社長も入ればいいのに。

『そうだそうだ♪ 一緒にはいりませんか? って誘っちゃえ~~♪』

 出かかった黒悪魔茉莉を、平手でお湯の中にぴしゃりと叩き落した。