再び社長の隣のソファーに腰を降ろした瞬間、ニコニコ笑顔で次に下された業務命令に、脳細胞がフリーズ。思わずすっ頓狂(とんきょう)な声が出てしまう。

「なんだ、一緒に入りたいのか?」

 否、とばかりにブンブンと頭を振る私に向けられる社長の瞳には、いたずら小僧のような光が揺れている。

「あのな。男は風呂の内装やシャンプーの使い心地なんか、あまり気にしないものなんだ。肝心なのは、女性客の満足度。それがどのくらいあるのか知るためには、俺よりもお前に使ってもらった方がいいんだ」

 うん? と銀縁メガネ越しに伺うように見つめられて、思わず鼓動が変な風に乱れてしまう。

 でも、社長の説明はよく分かった。

 確かに男性よりも女性の方が、お風呂の満足度は重要視すると思う。
 
 それは、ホテル利用のリピート率に跳ね返ってくるのかもしれない。

 これはお仕事。

 しっかりがっつり隅々まで、ホテル愛の城のオリエンタル風呂を満喫してやろうじゃないか。

「わかりました。がんばります!」

「バスローブの着心地も大事なチェックポイントだからな。実際袖を通してみてくれ」

「は、はいっ!」

 仕事意欲がメラメラ燃え上がった私は、意気揚々とおバスルームへと足を向けた。