忙しすぎて、愛を語らう暇がないって、どうよ?

 その上、いよいよ家を出なくていけない期限が一カ月後に決まったものだから、『引っ越し費用の工面』と『引っ越し先探し』もしなくちゃならない。

「引っ越しもしなきゃだし……うう、なんで引っ越しってあんなにお金がかかるの?」

 引っ越しには、敷金礼金もろもろで数十万円の費用がかかると知ったときの衝撃は、いまだ記憶に新しい。

 美由紀には申し訳ないけど、思わず大きなため息が出てしまう。

「あ、それそれ。言うのを忘れてた。引っ越し先は探さなくてもいいよ。兄貴の方で社員寮を用意してくれるから」

「え……? 社員寮なんてあるの?」

 それは初耳だ。

「うん、まあね。敷金礼金なし、家賃は給料天引き一万円ぽっきり、もちろんお父さんとの同居もOKだって」

「ええっ!? 社員寮って家賃一万円でいの!?」

「いいのいいの」

「ううっ、助かる~」

 ああ、よかった。

 これで、とりあえず目の前に迫った難問はクリアできそうだ。

 残る問題は。

「ねえ茉莉。妹のあたしが言うのもなんだけど、こと恋愛に関するかぎり兄貴のリードは期待しない方がいいよ」

 美由紀は、オレンジジュースをストローでかき回しながら、少し遠い目をして言った。