【番外編】3.5章
※3章と4章の間のエピソードです。


【セカンドキスはまどろみの中】

(1)妹はこうして発破をかける


  ※   ※   ※


 衝撃の車中告白劇の後、社長と私の間で何かが変わったかというと、表面的には何も変わらず。

変わらないことに対して、私は内面的に少しばかりモヤモヤしたものを抱えていた。

 そんな膠着(こうちゃく)状態が大きく動き出すきっかけは、美由紀の何気ない一言だった。

 土曜日の午後。

 いつもの行きつけの喫茶店ノアールで美由紀と二人で他愛無い話に花を咲かせているとき、美由紀は何気なく質問を投げてきた。

「そういえば、あれから兄貴とは何か進展があったの?」

 告白から一カ月。

 悲しいほど、二人の間に変化はない。

 デートもしてないし、そもそも二人だけでプライベートな会話すらしていない。

 私、本当に告白したんだよね?

 確かに、社長と甘いキスをしたよね?

 全部、都合がいい妄想とかじゃないよね?

「あははは……」

 私は、少しばかり哀しい気持ちで形ばかりの笑顔を浮かべた。

「そっか。やっぱりねぇ……」

 美由紀は腕組みをすると、うーんと形の良い眉根を寄せる。

「だいたい、茉莉も兄貴も忙しすぎるのよね。兄貴はもともと仕事の虫で睡眠時間は三、四時間でもぜんぜん平気な変な人だけど、茉莉はかなり無理してるんじゃない?」

「うん、私も睡眠時間は三、四時間かなぁ……」

 夜勤をしながら大学にも通うとなると、どうしても睡眠時間を削るしかなくなる。

 もともと八時間はたっぷり寝たい人なので、私的には三、四時間の睡眠は『仮眠』に近い感覚だ。

 もちろん、休みの日には普通に眠れるけど、それは週に二日、仕事が公休の土曜日と火曜日の夜だけ。

 つまり、それ以外の曜日は五日間、睡眠不足になる。週五日熟睡しないで仮眠状態でいると、どうなるか。

「茉莉、目の下のクマ、かなりひどいよ?」

「うん、知ってる……」

 ということになるわけだ。