二十畳ほどの広い洋間の応接セットのソファーに腰かけて談笑していた男女が、私の方に視線を向けた。

白いベビードレス姿の赤ん坊をその胸に抱いている、上品な黒留袖に身を包んだ五十代に見える女性には、見覚えがあった。

間違いない。

祐兄ちゃんちのおばさん、『咲子さん』だ。

記憶の中の姿との差異が、ほとんどないことに驚いた。

そして、咲子おばさんの隣りに座る男性の姿を見た瞬間、私はさらに驚いた。

モーニングコートの正礼装に身を包んだロマンスグレーの素敵なおじさま。

少し鋭さを持った切れ長の瞳や、通った鼻筋、薄めの唇。

どこをとっても、祐一郎さんにそっくり。

――いや、この場合、祐一郎さんがお父さんに似ているんだ。

思わずチラリと祐一郎さんに視線を向ければ、なんとなく不機嫌そうな表情を浮かべている。

――うん。間違っても、「そっくり」とは言わないようにしよう。

それだけのことを数瞬の間に決意すると、私は「初めまして、祐一郎さんには大変お世話になっています、篠原茉莉です。この度は、美由紀さんと守さんのご結婚、おめでとうございます」と、ソファーに座る二人に向かって深く頭を下げた。