親族控室のドアの前で私は立ち止まり、大きく深呼吸をした。
ドキドキしすぎて、心臓が口から飛び出しそう。
今、この部屋の中には、祐一郎さんのご両親が来ている。
祐一郎さんのお母さんの咲子さんは亡くなった母の親友だった人で、私が八歳の時まではお隣に住んでいたから、『きれいで優しい祐兄ちゃんちのおばさん』という記憶はある。
でも、あれから十三年以上経っているし、祐一郎さんのお父さんの谷田部彰成さんに至っては一面識もない。
緊張しすぎて、なにかやらかさないか心配だ。
「なんだ? おふくろとは面識あるんだから、そんなに緊張することないだろう? 親父のことは、まあ、適当にあしらってくれればいいから」
苦笑気味に言う隣に立つ祐一郎さんを、ちらりと見上げれば、ほれぼれするくらいにカッコイイスーツ姿が目に入る。
――ああ、私、祐一郎さんの隣りに立って、見劣りしないかな。
私は、いつぞやの接待食事会で祐一郎さんに買ってもらった一張羅のピンクのドレスに包まれた、自分の姿にぐるりと視線を巡らせる。
「心配するな、今日のお前は最高にカワイイよ」
普段は絶対言わないセリフを耳元に落とされ、ぶわっと顔が上気する。
なーぜー、今、言いますか?
緊張に恥ずかしさがミックスされてしまい、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「ほら、中でみんなお待ちかねだ」
祐一郎さんに促すようにポンと肩を抱かれて、私は覚悟を決める。
祐一郎さんと一緒に人生を歩むのなら、これは避けては通れない道だ。
よしっ。
女は度胸だレッツゴー!
私は、もう一度深呼吸してから、ドアを開いた。