「だって、祐一郎さんに会えたもの」

「っ……あのなぁ、この状況でそういう可愛いこと言うなよな」

ふふっと幸せをかみしめながら言えば、祐一郎さんのため息交じりの低音ボイスが耳元に落ちてきて、ドキリと鼓動が跳ねる。

「ほんと、いつも無自覚に誘ってくれるよな」

チュッと首筋に口づけられて、跳ね上がった鼓動が暴走し始める。

――あ、やばい。

自分の言動が、祐一郎さんの変なスイッチを入れてしまったことを悟った私は、慌てて話題を逸らそうと試みる。

「あ、あの、そういえば、佐藤主任にフロントに呼ばれてましたけど、何かあったんですか?」

首筋にキスの雨を降らせていた祐一郎さんが、「ん?」と動きを止める。

――やった。作戦成功!

「ああ、あれか。あれは、結婚の報告だった」

「……はい?」

ケッコンって、結婚ですか?

「え? 誰の?」

「誰のって、守と美由紀の――」

なんで美由紀の名前が出てくるんだろう?

と、小首をかしげていたら「あ、しまった、もう少し内緒にしてくれっていわれてたんだっけ」と祐一郎さんが苦笑する気配がした。

「ええと、スマイリー主任が、結婚するんですか?」

「おまっ、スマイリー主任って、守のことか? スマイリーって、ぶくく……」

つい油断してあだ名呼びをしてしまい、祐一郎さんの笑いのツボを攻撃してしまった。