――え、何?

驚きで一瞬、思考が止まる。

見開いた視線の先、すぐ目の前に、覆いかぶさるように私の肩の上に両手をついた高崎さんの顔があった。

二ヤリ、と歪な笑みをその口元に張りつけ、欲望に目をぎらつかせたその顔を、私はただ驚きの眼で見つめた。

「な、……にを?」

するんだ、このすっとこどっこい!

いくら元婚約者だって、やっていいことと、悪いことがあるでしょう!?

驚きは、せりあがってくる恐怖を蹴り飛ばし、すぐさま憤りに転化した。

「どいてくれませんか、お客様」

私は、一度大きく深呼吸して怒りを逃してから、極力落ち着いた声でそう言った。

一応、仮にも『お客様だ』。

もちろん『何してくれるんだコノヤロウ』っていう怒りの気持ちを瞳に込めて、相手を見据えるのを忘れない。

友好的とは程遠い視線が交錯する中、高崎さんは面白そうに口の端を上げる。

――この人は、こんなふうに歪んだ嗤い方をする人だっただろうか?