パタリ、と背後でドアが閉まった音が上がり、内心ドキリとする。

――大丈夫。

普通に、お客様と接する態度を崩さなきゃ、平気。

この305号室は、ほかの部屋よりも床面積が広い特別室で、そのぶん利用料金も高額だ。

窓辺には、クイーンサイズの天蓋付きの大型ベッドがあり、応接セットも中世ヨーロッパをイメージした高級感であふれている。

ソファーに腰を下ろした高崎さんの前に、私は、極力冷静を装っておつまみセットとワイン、そしてワイングラスをセットしていく。

最後に、ナプキンとフォーク、コルク抜きを置けば、セットは完了。

よし、これでOK。

「ごゆっくりどうぞ」

形ばかりの笑みを浮かべて、斜め十五度に会釈をすると、私は部屋を出るべくくるりと向きを変えた。

すると、すかさず「ワインを開けてくれないか?」と、背後から声がかかり、「うっ」と足を止める。

これも、サービス、サービス。

念仏のように心で唱えながら、私は「かしこまりました」と笑顔で答え、テーブルに歩み寄るとコルク抜きを手に取った。

ほとんど見よう見真似で、コルク抜きをワインのコルクに差し込み力を入れて回していく。

力を入れて引っ張れば、スポン!と小気味よい音を上げてコルクが抜けた。

ホッとした私は、慎重にワイングラスに赤ワインを注いだ。

ひとつ注ぎ終わると、「こっちも頼む」と催促されて、『なぜ一人なのに二つのグラスに入れるの?』と疑問に思ったけど、とにかくサービス。

お客様がご所望なのだから、従業員である私に否はない。