事の始まりは、昨日の夜だった。

時間は、もうすぐ午前二時。

夜勤のルームメイク担当の社員が仕事を終えて、二階の従業員控室から降りてくる時刻だ。

一か月くらい前から簡単な事務処理も任されるようになった私は、社長室の隣りにある事務所で自分用のパソコン端末に向かい、本日の売り上げ表をちまちまと作っていた。

経理は専門の日勤の社員さんがいて、その人が正式な書類を作る。だから、今作っている売り上げ表はその資料になる、らしい。

実際には、仕事がないときの私のために、祐一郎さんがわざわざ仕事を作ってくれたという側面が強いと思う。

それにしても。

「相変わらず、すごい金額だ……」

ゼロの数が、半端ない。

週末には、さらに売上金額は跳ね上がる。

いつだったか、そうだ引っ越しの日。

ラブホテルという職種をどう思うかと祐一郎さんに問われた父が「企業人としていうなら面白い分野だと思う」と言っていたけど、確かにその通り。

毎日これだけの売り上げが上がるんだから、面白いだろう。

それだけじゃない。

ポイントをためると年に一度海外旅行があたるお楽しみイベントや、季節ごとのプレミアム企画など、お客様によろこんでもらえる様々な企画を考えたりして、マーケティング的な面白さややりがいもある仕事だと思う。

でも、祐一郎さんが言うには、大手の会社は、ラブホテル事業には手を出さないのだそうだ。

企業イメージがあまりよろしくない、ということらしい。

『だから俺は、ラブホテルを全国展開して、会社を大きくしたいんだ』

そう言って、祐一郎さんは不敵な笑みを浮かべたものだ。