二匹どうじにドボンと水に飛び込むと、水槽越しに向かい合い、亀雄くんが珍妙な動きを始めたのだ。

前足を亀子さんの顔の前に出してプルプルプル、とまるでスイッチが入ったみたいに長い爪先を小刻みに震わせている。

タイトルをつけるなら『アブラカタブラ』。

まるで、魔女が相手に魔法をかけているような、どこかユーモラスなその動きに思わず口の端があがる。

「これって……あれですよね」

「求愛行動だろうな、たぶん」

私と祐一郎さんは、顔を見合わせてクスリと笑いあう。

懸命に爪の先を振るわせる亀雄くんを、亀子さんはつぶらな瞳で、じっと見つめている。

亀雄君の生まれてはじめてのプロポーズを、亀子さんは受け入れるのか。

二匹の亀たちの恋が、はたして成就するのか否か。

こうして二人で見守っていきたい。

心から、そう思う。

水中求愛ダンスを続ける亀たちの水槽の前で、ひとしきりクスクスと笑いあった私たちは、優しいキスを交わした――。