煩いくらいに跳ね回る鼓動の音が、頭の中にガンガン響く。

早く、目を逸らさなくちゃ。

そう思うけど。

目が、離せない。

視線が、外せない。

一秒。

二秒。

三秒。

鏡越し。

蛇に睨まれたカエル状態で固まっている私に向けられていたその男の強い視線が、ふっと緩んだ。

愉快そうに細められた目の表情が意味する所は、ただ一つ。

――わ、わ、笑われたっ!?

ぶわっ。

火が付いたように、顔が一気に熱くなる。

私は、釘付けになっていた視線を慌てて引きはがしてうつむいた。

酸欠の金魚みたいに下手な呼吸をしながら、自分の黒いパンプスに付いているリボンをじっと見詰める。