正直なところ、あの広い部屋で一人暮らしはかなり寂しい。
私一人なら、十二畳の部屋でも広すぎるくらいだ。
どうせ亀子さんのお世話はするのだから、亀雄くんの世話をしたところでそんなに手間が増えるわけじゃない。
私としては、願ったり叶ったりの好条件だけど。
亀のお世話と高級マンションの十二畳一部屋って、ビジネスとしてみたら社長の方にあまり利益がないんじゃ?
「亀雄くんのお世話だけでいいんですか? なんだか釣り合いがとれないきがするんですけど……」
「じゃあ、ここでは『社長』呼びは禁止。名前を呼ぶこと」
「え? それだけでいいんですか?」
「なら、どうすれば釣り合いが取れると思うんだ?」
ルームシェアで私ができることって言ったら、家事くらいのもの。
なんとなく、誘導尋問されている気がするけど、思いついたことを言ってみる。
「ええと、社長のお世話……とか?」
その瞬間、社長の顔に浮かんだのは『してやったり』の会心の笑み。
ギクリとしたが、遅かった。
「なら、それを追加して決定だな。契約終了っと」
ポン! と、両手を一本締めのように打ち鳴らした社長は立ち上がり、あっけにとられている私の方へ歩みよった。
そのまま、ソファーに座る私の膝の裏と背中に手を回すと、当たり前のように抱き上げる。
「ということで、もう遅いし、寝るとしようか」
低い声で耳元に囁かれて、ドキリと鼓動が跳ね上がる。
「俺の世話をしてくれるんだろう?」
そう言って、ちゅっ、と唇が食まれる。
「っ!?」
私は、何かとんでもない契約をしてしまったことを悟った。



