「駐車場まで見送るといえば、父は「いいから荷ほどきをしてしまいなさい」とやんわりと拒んだ。

「娘のことを、どうぞよろしくお願いいたします」

玄関で不動社長に深々と頭を下げると、父は私の頭をくしゃくしゃっとかき混ぜてから、「あまり無理をするなよ。困ったときは、祐一郎君を頼りなさい」と言って、にっこりと微笑んだ。

ドアの向こう側に大きな背中が消えた瞬間、不覚にも涙がポロリとこぼれた。

「っ……」

これは、べつに今生の別れじゃない。

それは分かっているけど、胸の奥にぽっかりと空いてしまった、この喪失感を埋めるすべを私はもっていない。

ポロリ、ポロリとこぼれる涙を、冷たい指先が優しくぬぐう。

もう。

こんな時に優しくされたら、ますます涙が止まらなくなるじゃない。

声もなく涙をこぼしていたら、今度はそっと両腕の中に閉じ込められてしまった。

そのまま、ぱふんと、胸へ抱き寄せられる。

それは抗えばたやすく抜け出せる、優しい抱擁。

だけど、私は抜け出さずに、ぎゅっとその大きな背に両腕を回した。

まるで猫のようにすりすりとほほをすり寄せれば、心地よい柑橘系の爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。

ああ、この香り、とっても安心するなぁ……。