で、で、でも、私たち、まだ一回キスしたきりだし!

ど、ど、ど、どうしよう!

妄想が暴走して一人で慌てている私をよそに、社長はひとつ大きく深呼吸すると、静かに口を開いた。

「先ほど、私の会社が経営しているのがラブホテルだとご存知だとおっしゃいましたが、茉莉さんの勤め先としては、どう考えておられますか?」

真剣な社長の問いに、父は少し驚いたように目を見開いた後、ニコリと目じりを下げた。

まるで、予想していた話と違って、安心したかのように。

「どうとは、どういう意味かな?」

「若いお嬢さんが勤めるには、ふさわしくない会社だとは、思われませんか?」

「君は、自分の仕事が恥ずべきものだと思っているのかい?」

「思っていません」

自信満々に胸を張る社長の言葉に、父は苦笑を浮かべる。

「茉莉の父親としていうなら、あまり歓迎はできないかな。だが、企業人としていうなら面白い分野だと思う。なんて、会社をつぶした私が偉そうに言えることじゃないのだが……」

父の言葉に納得したのか否か。

社長は、ふっと表情をやわらげて、大きな爆弾発言を投下した。

「実は、1か月ほど前に茉莉さんに『好きだ』と告白されまして」