保冷ポットに入れてきたブラックコーヒーを社長と主任に振る舞い、父にはガムシロップを半分入れた微糖コーヒー、自分用にはカフェオレ用の液体ミルクとガムシロップを入れて甘めのカフェオレを作った。
この数日、引っ越し準備であまり寝ていないから、身体が甘いものを欲している。
アイスコーヒーを飲み終えると、スマイリー主任は「今日は公休、明日は有給だから二連休だね。ゆっくり、荷ほどき頑張って!」と陽気に笑いながら、五階下にあるという自分の部屋に戻っていった。
リビングダイニングのテーブルに残されたのは、並んで座る私と父、そして向かい側でなぜか堅い表情で無言で座る不動社長の三人。
なんとなく、気まずい雰囲気が漂っているのは、私の気のせい?
「あ、社長、コーヒーのおかわりは、いかがですか?」
何とか間を持たせたくて問えば、社長は「ああ、もらおうか」と、グラスを私に差しだした。
「お父さんは?」
「ああ、私はもうたくさんだ」
その言葉の後、状況を大きく変えたのは父だった。
「それより、不動社長。……いや、祐一郎君。君は、私に何か話したいことがあるんじゃないかい?」
父は空のグラスを大きな両手の間に包みこむように転がしながら、そこに視線を落として静かな声音で言った。
――え?
社長が、お父さんに話したいこと?
寝耳に水な私が驚いてその表情を伺い見ると、社長は真剣な眼差しを私に向けてくる。
――こ、これは、もしや。
あれか。
『お嬢さんを僕に下さい!』的な、あれか!?



