そう。

父も、今日引っ越しをする。

『裸一貫からやり直す』との宣言通り、父は知り合いのつてで、長距離トレーラーの運転手として仕事を得た。

でも、その会社は三つほど隣の県にあり、通うのはとても無理。

ということで、私と父はそれぞれ就職先の会社の社員寮に入ることになったのだ。

家を出た寂しさと、父と別れる寂しさ。

このダブルの寂しさに、耐えられるかなぁ、私……。

なんて心配は、五分後、社員寮に着いた瞬間に吹き飛んでしまった。

社員寮の住所の駐車場に軽トラックを止めた父と私は、目の前にそびえたつ白亜の高層マンションを呆然と見上げた。

どう見ても、『社員寮』には見えない。

もしかしたら住所が間違っているのかもしれないと、社長から渡された手書きの地図を父と頭を突き合わせて確認する。

間違いない。

この住所だ。

ついでに、周囲の建物も地図に書かれている通りだから、やっぱり間違いない。

でも、これっていわゆる『高級マンション』ってやつでは……。

「取りあえず、行ってみるか」

さすがに年の功。

先に動き出した父につられて、私もワタワタと準備を始めた。