「祐一郎さん、もういらしていたのね」
入り口から、優雅な足取りで歩み寄ってきたのは、中肉中背の年配女性。
なにがしかのブランドものだろう、ぜったい既製品ではありえない、身体のラインにフィットした、ライト・ブラウンのアンサンブルを身にまとっている。
身に着けている、指輪、ネックレスにイヤリングは、本物の宝石にしか出せない輝きを放っていた。
一目で、セレブと分かる人種だ。
本日の主役、谷田部志乃は、椅子に座る茉莉とその足元で片膝をついている俺を見て、少し驚いたように目を見張って言った。
「あら、何かトラブルでも?」
「すみません。連れが、足を痛めてしまったようで……」
「まあ、それはいけないわね。大丈夫、あなた?」
「あ、はい大丈夫です」
大切な接待の場を自分のせいで台無しにはできないと思ったのか、茉莉は慌てて俺に小声で訴えてきた。
「大丈夫ですから。もうぜんぜん痛くないですから」
だが、その表情を見れば、かなり痛むのは一目瞭然。
俺は、後ろに控えている総支配人を手招きして呼んだ。



