チン――。

リズミカルな音を上げてエレベーターがとまる。

私は、ドアが開ききるのも待たずに、勢いよくエレベーターに体を滑り込ませた。

その時。

フワリと、ほのかな甘い香りが、鼻の奥をくすぐった。

――バラの……香水?

そう思った次の瞬間、飛び込んできた目の前の光景に、私の全身は瞬間冷凍されたサンマのように『ピキッ』と、固まった。

――え……。

えええっ!?

声を上げなかったのは、単に驚きすぎたせいだ。

本当に驚いたとき、人は、声を出せないものらしい。

エレベーターには先客が居た。

二人だ。

男女の、カップル。