奥様こと、今日のゲストの谷田部志乃(やたべしの)は、谷田部クループを統べる本家の会長夫人だ。
家系図で言えば、俺の父谷田部彰成は、彼女の夫、谷田部源一郎の従弟に当たる。
少しややこしいが、俺と彼女は従甥(いとこおい)と従叔母(いとこおば)の関係になる。
まあ、簡単に言えば、お金持ちの本家の叔母さんだ。
俺が会社を立ち上げる際に、彼女にはひとかたならぬ尽力をしてもらっている。
気さくで飾らない性格の女性だから、茉莉のこともおそらく気に入ってくれるはずだ。
総支配人の後藤と立ち話のままいくつか料理の段取りの確認をとったあと、ふと茉莉の方に視線を向ければ、なぜかその表情がどんよりと沈んでいる。
ついさっきまで、特別ボーナスがもらえると張り切っていたのに。
具合でも悪いのか?
「おい、どうした?」
声をかければ、茉莉は「えっ!?」と、飛び上がらんばかりに驚いた。
その拍子に、足がたたらを踏む。
慣れないハイヒールを履いていた足は見事にバランスを崩し、全体重がかかった右足首が『ギクッ』と嫌な音を上げる。
瞬間、茉莉は痛みに耐えるように顔をゆがませた。



