どれ、気持ちよく安眠しているところ悪いが、起きる時間だシンデレラ。
俺は運転席から左手を伸ばして、茉莉の右のほっぺたを『ぎゅむっ』とひっぱった。
「痛っ! ってあれ……?」
茉莉は、俺がつねった右頬をナデナデしつつ、寝ぼけまなこで運転席に視線を向けてくる。
「助手席で爆睡をかますとは、ずいぶんな余裕だな」
地を這うような低い声音で言えば、浮かべようとした愛想笑いが、盛大にひきつった。
「すみません、社長の運転があまりにパーフェクトだったので、つい気持ちよくって……もう着いたんですね」
と茉莉は窓越しに外を見渡して眉根をよせる。
「ホテル・ロイヤルの地下駐車場に、そっくり……」
「そっくりなんじゃない。ここは、ホテル・ロイヤルの地下駐車場だ」
茉莉にとっては、ここは元婚約者と修羅場を演じた、苦い思い出が残る場所。好んで来たい場所ではないだろう。
だが、仕事は仕事。
プライベートとは、きっちり線引きをしてもらわなくては困る。



