「馬子にも衣装だな」
動揺をさとられたくなくて、ことさらそっけのない感想を言えば、茉莉は少し残念そうな表情を浮かべた。
ここでほめちぎって茉莉のテンションを上げておくべきなのはわかっているが、自分のテンションも変に上がりそうで、まずい気がした。
ともあれ、これで準備は整った。
代金は、俺の個人カードで支払いをした。
さすがに、これを接待費として会社の経費から落とすわけにはいかない。
「ありがとうございました」
茉莉は、店から出る前に自分を華麗に変身させてくれた女性店員に会釈して謝辞をしめしたが、履きなれないハイヒールのせいかフラリとよろめいてしまった。
すかさず腕を伸ばし肩を抱くように支えたから、コケはしなかったが。
ローヒールの靴に取り換えた方がいいかとも思ったが、なにせ時間が押している。
遅刻は絶対できないから、このままいくしかないか。
肩に手を回したまま、おぼつかない足取りの茉莉をエスコートして車の前に到着すれば、茉莉は途方に暮れたように、自分の足元と車に視線を往復させてから言った。
「あ、靴だけ履き替えますんで、ちょっと待ってください」
着替えが入っている店のロゴ入りのペーパーバックを開けゴソゴソと中を探っている茉莉に、俺は「鍵をよこせ」と右手を差し出した。



