「こちらこそ。茉莉ちゃんの頑張る姿に、たくさん元気をもらったよ。たぶん、他のみんなもそうだと思うよ。――ね? 社長」

と守に話を振られた俺は、茉莉を見下ろし、ボソリと一言つぶやいた。

「なんだ、その地味な服は?」

「……普通のスーツですけど?」

なぜそんなことを言うのかわからない、といういぶかしげな表情で茉莉は俺を見上げてくる。

まあ、俺も説明が足りなかったが。

まさか濃紺のパンツスーツで来るとは思ってなかった。

「明るめの服装を」と付け加えておくんだった。

自分の読みの甘さと配慮不足に大きなため息をつく。

本日の接待の相手は年配の婦人だが、「息子しかいないから可愛らしいお嬢さんとお食事するのが楽しみなの」という人物なのだ。

別に、地味なパンツスーツでも気を悪くするような人ではないが、こちらとしては万全な接待をしたい。

「まあ、いい。それならそれで予定を変えるまでだ」

「……は?」

「少し早いが、今から出かけるから後は頼むぞ、守。終業までには戻るつもりだが、はっきりとした時間はわからない」

「はいはい、了解です。こちらのことは気にせず、ごゆっくりどうぞ。茉莉ちゃんも、経費で美味しい食事ができてラッキー♪ くらいに気楽に楽しんでおいでね」

バイバイ、と手を振る守に見送られて、

「ほら、行くぞ」

「あ、はいっ!」

俺は小走りに追いかけてくる茉莉を引き連れ、駐車場に向かった。