『よぉーく、銘じておいてください。それにしても……』
お返しとばかりに、はぁーっと大きなため息をつく美由紀に、俺は眉根を寄せる。
「なんだよ?」
『好きなのについつい意地悪しちゃうなんて、こと恋愛に関する兄さんのメンタリティーって、小学生並みだよね。ほんっと、残念なイケメンさんだ』
「小学生って……、失礼な。これでも立派なバツイチだ」
『おー。好きなのにって部分は否定しないんだ』
からかいモードで言ってくる美由紀の言葉を否定する気力がわいてこない。
もう、好きに言ってくれ。
「揚げ足を取ってないで、早く寝ろ。具合いがあまりよくないんだろう?」
兄貴かぜを吹かせて言えば、美由紀は素直に『はーい』と応えた。
『んじゃ、おやすみなさい』
「ああ、おやすみ」
スマホの通話ボタンを切れば、どっと押し寄せてくる疲労感。
ったく、友達思いなのはいいが、兄貴をからかって遊ぶんじゃない。
コーヒーカップを乗せたトレーを給湯室に下げて、俺は今度こそ家路についた。