社員の間では『クマ社長』の愛称で呼ばれる父は、気の優しいクマさんのような容貌をしている。
小耳に挟んだ噂によると、一部の女子社員の間では、蜂蜜つぼを抱えた某有名キャラクターの名前で呼ばれているらしい。
太い眉毛の下のつぶらな瞳。
いつもなら、話す相手に真っ直ぐ向けられるその瞳が、今日は苦しそうに伏せられている。
――お父さん?
こんな父の姿を見るのは母が亡くなったとき以来初めてで、私は、心の奥が意味もなくざわついた。
「今日、二度目の不渡り手形を出した……これで完璧に倒産だ。すまない茉莉……」
うつむき加減の父の口から、今まで聞いたことがないような、力のない声が漏れる。