『それじゃ、お先にね』と茉莉に言うと、カラカラ笑いながら守は部屋を出て行った。
残されたのは、まだ半べそ状態の茉莉と俺の二人だけ。
うれし涙だが、そんなに泣いたら目が腫れてしまうだろうに。
「す、すみませ……」
茉莉の涙は止まる様子がなく、後から後から際限なくこぼれ出してくる。
俺は椅子から立ち上がると、ティッシュボックスを茉莉に無言で押し付けるように渡し、そのまま給湯室へと足を向けた。
いつもコーヒーを入れてもらっているから、こんな時ぐらいは俺が入れてやろう、と思ったからではない。
断じてない。
単に、自分が飲みたかっただけだ。
ついでに、茉莉の分も入れてやるのはやぶさかではない。
そう自分に言い訳をしながら給湯室の中に入ると、システムキッチンの人工大理石の白い天板に置いてあるコーヒーメーカーに、手早くコーヒーの粉と水をセットする。
実は、このコーヒーメーカーは、茉莉が家で納戸に眠っていたものを「使ってください」と、持ってきたものだ。
コーヒーメーカーの他にも、コーヒーカップセット、ティースプーンなどのこまごましたものも、せっせせっせと茉莉が押し売りならぬ『押し置き』したものだ。
おかげで、冷蔵庫の中味の『缶コーヒーコレクション』以外、ほとんど何もそろってなかったこの給湯室も、なんとか機能するようになったのだが。



