「篠原さん、まずは一カ月ご苦労様」
「は、はい、ありがとうございますっ」
採用か、不採用か。
茉莉は、シャキーンと背筋を伸ばして俺の言葉を待っている。
その喉が、ゴクリと音を立てて、大きく上下した。
そんな緊張が耐えられないとばかりに、すかさず、守がツッコミを入れる。
「ほら、もったいぶらないで、さっさと言ってあげてくださいよ。こんなに緊張して、かわいそうじゃないですか。それともなんですか、それを見て密かに楽しんでるクチですか?」
「お前は……」
『はーっ』と長いため息を吐いて、俺は眉間をぐりぐりともみほぐしたあと、茉莉に視線を移した。
視線と視線が真っ向からぶつかり合い思わず及び腰になった茉莉は、それでも視線をそらさない。
この一カ月、通勤日には少なくても出社時と退社時、一日に二回は顔を合わせて来たし、休憩時間にコーヒーを入れてくれたりして、それなりにコミュニケーションを取ってきた。
しかし、さすがに一カ月程度では、本音の部分を言えるまでにはならない。
分かりやすい、とは思うが。
俺は、一呼吸おいて茉莉に告げた。
「篠原茉莉さん」
「はい」
「試用期間の就業状況を鑑みて、あなたを、正式採用とします」
『正式採用』
聞き間違えようのないその言葉を、まるで何度も脳内で反芻するように目を瞬かせたあと、茉莉の顔に浮かんだのは歓喜の笑顔。



