残っていた缶コーヒーをグビリと飲み下せば、いつもなら美味くかんじる苦みが舌について眉間にしわを寄せる。
『苦いのは苦手で』と、おどけていう茉莉の表情が目に浮かんだ。
父親の会社の倒産と婚約者の裏切り。
どれほどの痛手を心に追っているのだろうか。
つらくないはずはない。
それをおくびにも出さない強さは、天性のものだろうか。
「まあ、あの人たちの娘だからな……」
たまにしか家に寄り付かないやたらと身なりがいい夫を持った俺の母が、どこぞの金持ちに囲われていたことは、子供だった茉莉はともかくその両親が知らないはずはない。
特に茉莉のおふくろさん、佳代さんは俺の母と懇意にしていたから、谷田部彰成のことを母から聞いて知っていた可能性もある。
それでも、母やまだ子供だった俺に接する態度は優しく温かいものだった。
あの人たちのおかげで、どれほど俺が救われたか。
笑顔全開でなついてくる小さな茉莉が、純粋にかわいかった。
その茉莉がこうして俺の立ち上げた会社で働くことになろうとは。
「妙な縁があったもんだ……」
なんにせよ、退屈はしないですみそうだ。



