冷蔵庫に入れてある缶コーヒーでじゅうぶんだ。

そう伝えようと給湯室を覗いたら、茉莉はつま先立ちでキッチンの吊戸棚に手を伸ばしているところだった。

だが、悲しいかなどう見ても、身長が足らない。

苦笑しつつ室内に足を進めようとしたときに、何を思ったのか茉莉はつま先立ちしたまま「ぴょん!」と小さくジャンプした。

「っくっ……ううっ、どどかない」

それでも、吊戸棚の取っ手にどうにかかすった程度。

やれやれ。

と、小さくため息をつきつつ近づいていくが、扉を開けることに夢中な茉莉は気づかない。

そして。

「もうちょっと!」

もう一度、今度は一歩右足を引いて弾みをつけて、飛び上がる。

伸ばした手が取っ手に触れた瞬間、すかさず掴んで手前に引いた――のがいけなかった。

確かに、扉は開いた。

だが、思いの外反動の付いた茉莉の体は、グラリと後ろに傾いでしまった。

このままこの狭い通路で後ろに倒れこんだら、茉莉の後頭部を待っているのは壁面収納の木製の扉。

あの勢いでまともにぶつかったら、ただじゃすまない!

もうほとんど脊髄反射で床をけり、両手を伸ばす。

抱き寄せるというよりは、壁面収納と茉莉の間に体を滑り込ませて、クッションがわりになったという方が正確だ。

重力にひかれるまま、後ろに自由落下してきた茉莉の華奢な体をナイスキャッチで両腕に抱え込み、そのままドスンと尻もちをつく。