シュンと意気消沈している茉莉の姿をみていたら、自分でも意外なほど優しい声と言葉が口をついてでた。

「謝る必要はない。君は、何も謝るようなことはしていないだろう?」

「え……?」

「悪いのは、若い女の子にいきなり深夜まで仕事をたのんだ、こっちの方だ。配慮が足りないと思ったから親父さんにも謝った。ただ、それだけのことだ」

茉莉は表情の選択に困ったように、ただポカンと、若干間の抜けた顔で俺の話を聞いている。

なかなかいい感じじゃないか。

家で待っている篠原の親父さんに心配をかけないためにも、茉莉にはぜひ元気になって帰ってもらおう。

気をよくして、励ましの言葉を添えようとしたのが、いけなかった。

「むしろ君の労力で、急場を凌げたんだから胸を張っていい」

「胸……、ですか?」

茉莉が、あまり起伏の激しくない自分の胸元に視線を落とせば、つられて俺も茉莉の胸に視線を落とした。

あ、まずい。

本能的に地雷を踏んだことを悟った俺は、何も見なかったように、真顔で視線を逸らした。

ジトッと、茉莉の視線が頬に突き刺さるが、俺は、もうこれで話は終了とばかりに、ゴホンと咳払いを一つ。

慣れないことはするもんじゃない。

これ以上地雷を踏む前に、終わらせてしまおう。

「まあともかく、今日は、ご苦労様。気を付けて帰りなさい」

ビジネスライクな表情と声音で茉莉に告げると、踵を返して自分のデスクへと足を向けた。