「失礼しまーす」

元気な掛け声とともに部屋のドアを開け、足取りも軽やかにスタスタと歩いてくる守の後を、茉莉は重い足取りで付いてきた。

さすがに疲労の色は隠せない。

「社長。篠原さん、無事に初仕事完了しましたよ」

デスクのパソコンに向かってタイピング中だった俺は、手を止め「ご苦労さま」の言葉を添えて、茉莉に一万円入りの茶封筒を手渡した。

何気なく受け取り何だろうという表情で中を覗いた茉莉は、一万円札を見て『ぎょっ』とする。

「あ、あの、これは?」

「正式には、月曜から採用だからね。今日は臨時のアルバイトと言うことで現金払いです」

「えっ!?」

心底驚いたように目を丸めた茉莉は、パチパチパチと三回瞬きした後、ようやく自分の労働に対する報酬をもらえたのだということに合点がいったようだ。

さっきまでの疲れた顔はどこへやら。

一気に明るくなった表情を見ていれば、言葉にしなくても茉莉の心の中は手に取るように分かる。

――現金で貰えちゃうの?

それも、1万円も!?

超・ラッキー!

といったところだろう。