「了解、社長!」

「ええっ!?」

守の「社長」という呼びかけで、ようやく俺がここの社長だと気づいた茉莉は、驚きの眼で俺を見上げる。

まあ、俺は面接担当者としてしか自己紹介していないから驚くのは無理もない、とは思う。

でも、ふつうなら、(株)FUDOUの不動ですって自己紹介されたら、それこそ社長か社長の身内のどちらかと察してもいいんだが。

「あ、いえ、その、あの、お若い主任さんだなぁって思って……アハハハハ」

若干、呆れを含んだ視線を感じたのだろう、俺に話をふるのを避けた茉莉は守に矛先を向ける。

「ああ。童顔だからよく言われるけど、これでも二十五歳なんですよ、俺」

「え!?」

ベビーフェイスの守を同年代くらいに思っていたのか、茉莉は心底驚いたように目を見張っている。

「佐藤守です。よろしく、えっと篠原……」

「茉莉です。よろしくお願いします!」

「よろしくね茉莉ちゃん。それじゃ、ルームメイクの従業員控え室は二階だから、行こっか」

「あ、はい!」

ペコリと俺に挨拶をして、茉莉は部屋を出ていく守の後にひな鳥のようにくっ付いていく。その背中に、わずかの逡巡のあと、俺は声をかけた。

「守」

「はい?」

「ピンチ・ヒッターでも、手順は変えるなよ?」

俺の言葉に、守は少し驚いたように目を丸めた。そして、チラリと困ったような視線を茉莉に向ける。

「……マジっすか?」

「ああ、『いつも通りに』、だ。特別扱いは必要ない」

冷然と、という表現がしっくりくる抑揚がない声で言い渡し、俺は静かに頷いた。