「君、ええと、篠原さん! 今から三、四時間、時間ありますか?」

「え!? あ、はいっ!」

まさか、自分に話が振られるとは予想してなかったのだろう。俺が呼びかけると、茉莉は驚いたように、すっとんきょうな声を上げた。

「今から三、四時間ほど、何か予定が入っていますか?」

「あ、いえ。特に予定はないです……」

「よかった。いきなりで悪いけど、ピンチヒッターで仕事に入ってください」

「入れるかな?」ではなく、ここはもう「入ってください」と言い切ってしまう。

ニッコリと、全開のビジネススマイルを向ければ、茉莉はビビったように顔を引くつかせながらも「はい」と頷いた。

茉莉を案内して扉一枚向こうにある隣の事務室に向かう。部屋の広さは八畳ほどで、シンプルな事務用のスチールデスクが部屋の中央に四つ向かい合わせで並んでいる。

「すぐに夜勤の主任の佐藤が来るから、そこに座ってて」

「はい」

面接のお客様モードから若干同僚モードに言葉を切り替え、茉莉を事務デスクの椅子に座るように促したところで、守が到着。

「おはようございまーす!」

元気ハツラツな挨拶とともに現れた守を、茉莉は驚いたように見つめている。その視線に気づいた守は、人好きのする笑顔できれいなウインクを投げた。

「守、来週の月曜から社員で入って貰う篠原茉莉さんだ。今日は、彼女に、ルームメイクのピンチ・ヒッターを頼んだから、詳細はお前から教えてやってくれ」