『……ふーん』

「ふーんって、その反応はひどくないか? 仕事に妻を取られた傷心の兄に対して、もっと優しい労りの言葉とかあるだろう」

『だって、そもそも期間限定の偽装結婚でしょ?』

思いもよらない美由紀の核心を突いた言葉に、思わずうっと息をのむ。

なんで、お前がソレを知っている?

美由紀の言う通り薫との結婚は、親父がお膳立てしたがっていた政略結婚をかわすための方便だった。

つまりが、1年契約の偽装結婚というやつだ。

薫の方も俺と似たような境遇で、親からの見合い攻撃が煩わしくて俺に「いっそ、偽装結婚でもしちゃわない?」と提案してきたのだ。

まあ偽装とは言っても、もともと気心が知れた友人関係でお互い嫌いなわけじゃなかったから、まったく何もなかったとは言わないが。

「薫に聞いたんだな?」

『ご名答ー』

「なんだお前ら、そんなに仲が良かったのか?」

『まあね。風邪ひいたときとか、ただでなんども診てもらっちゃいました』

女のネットワーク、おそるべし。男の知らないところで、どんな情報網が張り巡らされているんだか。

『そっか、正式に離婚したんなら心おきなく光源氏できるね、がんばれ兄貴ー!』

何を頑張るんだ。

かわいい妹から生暖かいエールを送られた俺は、そっとスマホの通話終了ボタンを押したのだった。